作る タミヤ VOLKSWAGEN GOLF RACING Group 2 1/24
「考証編 KAMEI Golf Group 2」

KAMEI Golf Group 2とは何だったのか

※キット完成品

完成記事でも少し触れましたが、タミヤの「VOLKSWAGEN GOLF RACING Group 2」は、初代GolfをベースにKAMEI Autoextrasが走らせたGroup 2レーシングカー。まぁ、そのままですが・・・

初代Golfは1974年に登場。それまでVolkswagenの中心だった空冷リアエンジン・後輪駆動のBeetleから、水冷直列4気筒をフロントに横置きした前輪駆動へと大きく方向転換したモデルでした。Golf GTIは1976年に発売され、1.6Lエンジンから110PSを発生しています。なんかGolfってちょっと高級大衆車でしたよね・・・案外高価だった。Volkswagen Newsroom

そして、その翌年の1977年に登場したのがKAMEI Golfです。派手な赤・オレンジ・黄・白のカラーリング、大きく張り出したフェンダー、低いフロントスポイラー、BBSホイール。現在の感覚で見ると「Golf GTIのレーシング仕様」に見えますが、調べていくと単純に市販GTIを改造しただけの車ではなかったようですよ。


そもそもGroup 2とは?

※イメージ画像

1970年代のFIA Group 2は、市販ツーリングカーをベースに、競技用としてかなり広い範囲の改造を認めたカテゴリーでした。
当時のAppendix Jを見ると、Group 2は量産車を出発点としながら、吸気系は自由、カムシャフトやバルブトレインにも大幅な変更が可能。ただし、エンジンの基本構成やバルブ数など、元の量産車とのつながりを残す部分も規定されていました。つまり「ほぼノーマルのツーリングカー」というより、市販車の骨格と基本構造を残した本格的なレーシングカーと考えた方が近いようです。FIA

フェンダー拡幅についても規則があり、Appendix Jにはホイールを覆うためのウイングエクステンションについて寸法が定められています。KAMEI Golfの特徴でもある大きなオーバーフェンダーも、単なるドレスアップではなく、太いレーシングタイヤを収めるためのGroup 2らしい装備です。FIA

ここで面白いのが車重です。1976年および1978年のAppendix Jでは、1,600ccまでのGroup 2車両の最低重量は775kg。しかも燃料重量を除いたフィニッシュ時重量として規定されています。FIA
ところがKAMEI Golfについては、KAMEI由来とされる資料や後年の記事で「750kg」という数字が頻繁に登場します。AUTO ZEITUNGも、市販車のおよそ800kgから750kgまで軽量化されたとしています。AUTO ZEITUNG

「KAMEI Golfの車重は750kgだった」とそのまま書くのはちょっと怪しげです。750kgは車両単体の重量、開発時の重量、あるいは広報用の数字だったのかも。少なくとも、1977年ニュルブルクリンク1000kmで車検を通過した状態が750kgだったことは、今回確認できた資料からは証明できませんし、規定外な訳なかったんじゃないかと思ってます。


Golf GTIとホモロゲーション

1977年のKAMEI GolfはGolf GTIをベースとしたレーシングカーですが、FIAの登録を調べると少し面白いことが分かります。Golf GTIは1976年から市販されていましたが、この時点ではFIAに「Golf GTI」という独立した車種として登録されていたわけではありません。
競技車のベースとなっていたのは、1975年に登録されたVolkswagen Golf(登録名はGTIではない)のホモロゲーションNo.5584です。この登録には、その後1588ccエンジンやシリンダーヘッド、吸排気系などの追加認証が加えられており、Golfの競技仕様もこの登録を拡張する形で発展していきました。

「Volkswagen Golf GTI Typ 17」として独立したホモロゲーションNo.5731が発効するのは1979年です。つまり1977年のKAMEI Golfは、GTIが存在しなかったということではなく、FIAの書類上ではまだ「Golfの基本登録+追加認証」という形で競技に使われていた時代の車、ということになります。
だからなに?って話なんですけどね・・・


KAMEIは単なるスポンサーではない

※イメージ画像

KAMEIという名前が大きく描かれているため、レーシングチームのスポンサー名のようにも見えます。というか思ってました。
しかしKAMEIは自動車用品メーカーです。現在のKAMEI公式社史によれば、Karl MeierがVolkswagenでデザイナーとして働いていた1939年にルーツを持ち、会社としては1952年に正式設立。スポイラーをはじめとした内外装用品を手掛けてきました。カメイオートモーティブ

そのため、このGolfは単なるスポンサー車ではなく、KAMEI製品そのものを見せる「走るショーケース」という性格もかなり強かったようです。
大きなフロントスポイラーとフェンダーはまさにKAMEIの商品分野そのもの。後年の資料でも、このGolfはKAMEIの「rollende Visitenkarte=走る名刺」と表現されています。AUTO ZEITUNG

なおタミヤ旧説明書にはKAMEI設立を「1949年」と記載していますが、現在のKAMEI公式社史は「1952年正式設立」としています。シンバ・ディッキー・グループ


エンジンは何馬力?何cc??

ここも資料によって数字が違います。現在のタミヤ公式説明では、1578cc/173馬力とされています。タミヤ
一方、旧版のタミヤ説明書には、1600cc/176 BHP、7500rpmと記載され、最高速度は約217km/hとされています。ドイツ語部分では176PSとなっているので、当時の説明書自体も・・・・昭和な感じです。シンバ・ディッキー・グループ

FIAのホモロゲーション資料には1588ccのエンジン追加が記録され、1977年10月のZolderに出場したKAMEI GolfはRacing Sports Cars上では1596ccと記録されています。historicdb.fia.com
1977年5月29日のニュルブルクリンク1000kmを走った#63について、正確な実排気量を確定できる一次資料は今回確認できませんでした。


インジェクション?、キャブレター?

さて、吸気系。市販Golf GTIの1.6LエンジンはBosch K-Jetronicインジェクションを採用していました。Volkswagen自身も初代GTIについてK-Jetronic搭載としています。Volkswagen Newsroom
タミヤの旧説明書では、KAMEI Golfについても「Bosch Electrical Fuel Injection System」と記載されています。シンバ・ディッキー・グループ

ところが、後年のAUTO ZEITUNGの記事では、KAMEIのレーシングエンジンは鍛造ピストン、ポリッシュされたコンロッド、ハイカムなどに加え、K-Jetronicを外してツインキャブレターに変更したとされています。AUTO ZEITUNG

さらに現在残っているKAMEI Golfはオリジナルではなくレプリカで、AUTO ZEITUNGが紹介している車両には市販GTIのインジェクションが付いているとされています。AUTO ZEITUNG

1977年5月29日時点で#63が実際にどちらを使っていたのかは確認できません。レースごと、あるいはシーズン中に仕様変更されていた可能性もありますが、わかりません。


足回りと車体はかなり本格的

※イメージ画像

旧タミヤ説明書には、当時のKAMEI Golfについてかなり細かい仕様が書かれています。Bilstein製レーシングダンパー、前後調整式スタビライザー、Matter製ロールケージ、Recaroレーシングシート、Britax製6点式ハーネス、ベンチレーテッドディスク、KAMEI製レーシングフェンダーと一体型フロントスポイラー、そしてBBS製3ピースの9×13インチホイール。
単にGTIを軽くしてエンジンを強化しただけではなく、完全に競技用へ作り替えられた車だったことが分かります。シンバ・ディッキー・グループ

この辺はキットはよく特徴をとらえています。もちろん古いキット、しかもモータライズなので細部はかなり簡略化されていますが、あの異様に低い車高、張り出したフェンダー、13インチの小径ワイドホイールという全体のプロポーションは、Group 2 Golfの特徴ある部分を再現してます・・・よね?


タミヤの#63は実在した

タミヤのKAMEIカラー、ゼッケン63は架空ではありません。1977年5月29日に行われたADAC 1000km Nürburgring。World Championship of Makesの一戦に、

#63 Volkswagen Golf
KAMEI Autoextras
Bernd Renneisen / Wolfgang Wolf

として出場しています。Motor Sport Magazine

予選は26位、9分20秒4。

決勝では30周を走り、総合30位で完走しています。優勝したPorsche 935は44周だったので14周差でした。Racing Sports Cars

順位だけを見ると華々しい成績ではありません。しかしこのレースにはPorsche 935など当時のトップカテゴリー車両も多数参加。そのなかで1.6Lの前輪駆動Golfが同じ1000kmレースを走っていたという事実にはびっくりです。
しかもGolfはKAMEI車だけではなく、#64 Valvoline Golfも出場しており、こちらは29位。Golfがすでに本格的なツーリングカー競技車として使われていたことが分かります。Racing Sports Cars

そして何より、この日の#63を撮影した実車写真が残っています。

Photo: Lothar Spurzem / Wikimedia Commons
CC BY-SA 3.0 DE
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kamei-VW-Golf,_Bernd_Renneisen_u._Wolfgang_Wolf_(1977-05-29_Sp).jpg

1977年5月29日に当時のNürburgring Nordkurveで撮影された写真で、タミヤの模型と同じ赤・オレンジ・黄・白のKAMEIカラーを確認できます。ウィキメディア・コモンズ


#63のその後

※イメージ画像

KAMEI Golfはその後も参戦を続け、1977年10月9日のHockenheim 6 HoursにはRenneisen/Wolf組が#47で出場。翌週10月16日のZolderには、Renneisenが#19で出場しています。Racing Sports Cars

外観、エントラント、ドライバーから見ても#63と同系統のKAMEI Golfなのは間違いありません。が、これらがまったく同一の物理的シャシーだったかどうかは確認できませんでした。


現存しているKAMEI Golf

現在KAMEI Golfとしてイベントなどに登場する車両がありますが、AUTO ZEITUNGによれば、オリジナルのKAMEI Golfはすでに所在不明で、現在存在する車両はすべて後年に製作されたレプリカです。AUTO ZEITUNG
しかも紹介されているレプリカには、1980年以降の大型テールランプが付いた車両もあります。

1977年仕様に正確に再現しようとするなら、現在のレプリカ写真には気をつけましょう。細部は怪しいかも・・・。


小さなGolfが走り始めた時代

Golfが登場したのは1974年。GTIの発売は1976年。そしてKAMEI GolfがGroup 2で走り始めたのは1977年。Golfという車そのものがまだ登場して数年しか経っていない時代の車。Volkswagen Newsroom

後のツーリングカーでは当たり前になる、コンパクトなハッチバックを大きくワイド化し、小排気量エンジンを高回転まで回し、太いタイヤを履かせてサーキットを走らせるというスタイル。KAMEI Golfは、そのかなり早い時期の一台といえます。

タミヤが1970年代末にこの車を1/24スポーツカーシリーズのNo.8としてキット化した理由も、今見ると少し分かる気がします。PorscheやBMWのような純粋な高性能車ではなく、登場したばかりの「普通の小さなGolf」が、フェンダーを大きく張り出させてニュルブルクリンク1000kmを走っている。

そこがこの車の一番面白いところなのかもしれません。

※キット完成品

タミヤのキットについて

このキット自体もかなり古く、初版は1978年。タミヤ1/24スポーツカーシリーズのNo.8として発売されました。
1977年のニュルブルクリンク1000kmを走ったKAMEI Golf #63を、ほぼ翌年には模型化していたことになります。後年のクラシックカー企画ではなく、当時ほぼ現役のレーシングカーをキット化した製品でした。
初版はモーターライズ対応。2012年の再販版では走行機構は省かれています。現在のタミヤ公式ページもこの再販版を案内はしていますが店頭ではみませんねぇ。はい、初版のモーターライズキットを作りましたよ。他の記事にも書きましたが当時はマスキングなんて下手すればセロハンテープですよ。失敗して(当たり前です)全部黄色のゴルフになったわけでした。しかもエナメル塗料で筆塗りしてたなぁ・・・

そういえばマーキングのこと。#63だけでなく、#47、#19の塗装・マーキング図も収録されています。今回実車を追って確認したHockenheimの#47、Zolderの#19まで、実はキット側でも選択できます。バリエーションじゃなくて連戦を作れたんですねぇ。しらなんだ・・・・。

ただし、これらがすべて同一シャシーだったことを示すものではありませんので。あくまで同型のKAMEI Golfとして複数のレース仕様を再現できるキットです。

モータライズなんて今はみませんよね・・・マブチモーターFA130ってまだ売って・・・・ました。


参照資料

制作記事・ギャラリーはサイドバーからご覧ください

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