作る ハセガワ 本郷猛のバイク〜SUZUKI GT380 1/12
「考証 本郷猛が乗ったSUZUKI GT380B」

1972年の最新車だった「変身前」のバイク

キット完成品

『仮面ライダー』で本郷猛が乗っていたバイクというと、当然「サイクロン号」です。物語後半、新1号となった本郷猛が変身前に乗っていたのは、スズキの市販車「GT380」をベースにしたバイク。現在販売されているハセガワの版権商品でも、ベース車両は「スズキ GT380B」とされ、大型カウリングと風防を追加した姿として再現されています。

劇中設定では、この通常のオンロードバイクが本郷の変身に合わせて新サイクロン号へと変形します。東映公式では新サイクロン号の初登場を、第68話「死神博士 恐怖の正体?」、1972年7月15日放送としています。その「変身前」のバイクだったGT380とは。

1972年に登場したスズキGT380

GT380は1972年に登場した、371ccの空冷2ストローク直列3気筒車です。ボア×ストロークは54×54mm、最高出力38ps/7,500rpm、6速ミッションを装備。車両重量は183kgで、15Lの燃料タンクを備えていました。スズキ自身も、単に軽量なスポーツモデルとしてではなく、長距離走行も考えた車両としてGT380を紹介しています。
当時の『Cycle World』によるロードテストでも、高速走行時の安定性や大きなシート、柔らかめのサスペンションなどが評価され、スポーツだけでなくツーリングにも使えるミドルクラスとして扱われていました。

「空冷2ストローク3気筒」と聞くと、現在ではかなり過激なスポーツバイクを想像します。しかしGT380は、速さだけを狙ったマシンというより、当時の新しい技術を使いながら、街乗りから長距離走行までこなすGT的な性格を持ったバイクだったようです。

劇中で「研究員でありながら数々の大会を制した一流のオートバイレーサー」でもある本郷猛の愛車として見ると、なかなかお似合いだと思います。が、「本郷猛の設定に合わせてGT380が選ばれた」ということは確認できません(あたりまえだけどね・・・)。

頭の上に載った「ラムエアーシステム」

※画像はイメージです

GT380を特徴づけるもののひとつが、3つのシリンダーの上を覆う大きなカバー。これは単なる化粧カバーではありません。スズキが「ラムエアーシステム」と呼んだ冷却装置で、走行風をシリンダーヘッドへ導くことで冷却効果を高め、連続高速走行時の信頼性を向上させることを狙ったものでした。スズキは「水冷に匹敵する冷却効果」と説明しています。すごいね。

1972年当時の『Cycle World』では、これがスズキのTR500レーサーで使われた技術を応用したものだと紹介されています。カバーはゴムワッシャーを介して取り付けられ、シリンダーヘッドのフィン間にもゴム部品を配置。熱対策だけでなく、フィンの共振による騒音も抑えていました。

本郷車でも、この特徴的なエンジン周辺は市販GT380の姿をほぼそのまま残しています。仮面ライダーのバイクだけに一見すると特殊メカのようにも見えますが、実際には市販GT380が本当に持っていた機構です。

3気筒なのに4本マフラー

※画像はイメージです

GT380でもうひとつ目を引くのが、左右2本ずつ並んだ4本マフラーです。エンジンは3気筒なのに、マフラーは4本。スズキ公式資料では、4本マフラーによるシンメトリーな外観によって「500cc級に迫る風格」を持たせたこともGT380の特徴として挙げています。

ただし、単純に見た目のためだけに1本増やしたわけでもありません。当時のロードテストによれば、左右の外側2気筒にはそれぞれ1本の排気管を使い、中央気筒の排気を下側の2本へ分けています。中央用2本を合わせた内部容量は、外側1本分に相当するよう設計されていました。

つまりGT380の後ろ姿を特徴づける4本マフラーは、「3気筒の中央排気を2本に分ける構造」と「左右対称で堂々とした外観」の両方を成立させたものだったわけです。劇中車でも、もちろんこの4本マフラーはそのまま残されています。

1972年途中でフロントブレーキが変わった

※画像はイメージです

劇中車を考えるうえで重要なのが、1972年型GT380の途中変更です。GT380の発売当初は、フロントに180mmのツーリーディング式ドラムブレーキを採用していました。ところが同じ1972年4月には、前輪を油圧式ディスクブレーキに変更した仕様が追加されます。

スズキ公式の諸元表では、1972年型についてGT380とGT380Bの表記が併記されており、ディスク仕様は全幅・全高もわずかに異なっています。当時の『Cycle World』がテストした初期ドラム仕様では、フロントブレーキの効きや連続使用時のフェードについて厳しい評価も残されています。

実際に同年8月の『Cycle World』では、GT380のディスクブレーキ仕様が新モデルとして紹介され、海外市場への販売拡大も狙っていたことが報じられています。そして本郷猛のバイクとして現在版権商品で特定されているのは、このディスクブレーキ仕様のGT380Bです。

新サイクロン号が初登場するのは1972年7月。つまり本郷猛は、ディスク仕様が投入されてからわずか数か月後のGT380Bに乗っていたことになります。当時の視聴者から見れば、これは「昔のバイク」ではありません。その年に登場したばかりの新しいスズキです。

市販GT380Bから、本郷猛のバイクへ

※画像はイメージです

本郷車をノーマルGT380Bと比較すると、意外なほど市販車の部分が残されています。エンジン、ラムエアーシステム、4本マフラー、ワイヤースポークホイール、クロームフェンダー、シート、フロントディスクなど、基本となる車体はGT380Bそのものです。一方、外観上もっとも大きく変わったのはフロントまわりです。ノーマルGT380Bには存在しない大型カウリングが装着され、その上には黄色系の大きな透明スクリーンがあります。
現在のハセガワ版でも、通常のGT380Bをベースに追加されている主要部品は「カウリング」と「風防」とされています。市販GT380Bにあるミラーとウインカーは確認できません。大型カウルを追加し、それに合わせて前まわりを整理した車両らしいです。

あの大型カウルは何なのか

このカウル。調べた範囲では、メーカー名、商品名、デザイナー、製作者のいずれもわかりませんでした。
スズキ純正GT380Bにはこのようなカウルはなく、現在の版権商品でも特定メーカーの製品とはされず、単に「大型のカウリング」と説明されています。1970年代初頭にはFRP製のレーシングカウルや市販フェアリングはすでに存在していたため、それらを加工した可能性も考えられます。

一方、『仮面ライダー』では美術・特殊造形側でFRPによるバイク外装を製作した例もあり、本郷車用に撮影用部品として製作された可能性もあります。しかし、これはどちらも推測ですけど・・。

「GT380Bに撮影用の大型カウリングが追加されていることは確認できるが、その出自は不明」

スズキと『仮面ライダー』

GT380Bが劇中に登場した背景には、スズキと番組との関係もあります。当時のスタッフ資料では、『仮面ライダー』の「オートバイ協力」として室町レーシンググループと鈴木自動車工業の名が記録されています。スズキとの協力関係ですね。しかもGT380Bは、その1972年に登場した最新仕様です。メーカー協力番組に新型車が登場したことを考えると、商品露出という意味もあったかもしれません。

劇中では、本郷の変身と同時に新サイクロン号へと変形するマシン。しかし撮影に使われた「変身前」の姿を見ると、中身は当時の市販GT380Bをかなり忠実に残しています。ラムエアーシステムも、3気筒4本マフラーも、ディスクブレーキも、すべて市販GT380Bが本当に備えていたものです。そこへ大型カウルと専用カラーを加えることで、一目で「本郷猛のバイク」と分かる姿に変えている。しかもそのベースは、1972年に登場したばかりの最新モデルでした。

今でもGT380は見ることができる

GT380は現在でも絶版車市場で流通しています。2026年10月現在も1972年型を含む複数の販売車両が確認でき、200万円台後半の個体も珍しくありません。国内未登録の逆輸入車も多いため、現在販売されている1972年型が当時日本国内を走っていた車両とは限りません。

それでも、50年以上前に本郷猛が乗っていたのと同じ世代のGT380を、現在でも実車で確認できるのはありがたいところです。今回確認できなかったのは、劇中車そのものの車台番号やその後の履歴、そして大型カウルの製作者。

ハセガワの1/12キット

今回製作したのは、ハセガワの1/12「仮面ライダー 本郷猛のバイク」です。このキットのベースになっているのは、同社が2017年に発売した1/12「スズキ GT380 B」。

ハセガワはこのGT380Bを徹底した実車取材をもとに新金型で開発しており、特徴的な3気筒エンジンやラムエアーシステム、4本マフラー、足まわりなどを細かく再現しています。本郷猛仕様では、このGT380Bキットをベースに、

  • 大型カウリング
  • 風防

を新規プラ部品として追加しています。つまりキットの構成そのものが、今回実車を調べて見えてきた本郷車の成り立ちとよく一致しています。エンジンやフレーム、マフラー、ホイールなどを特別な「仮面ライダー仕様」に作り替えているのではなく、基本となるGT380Bは市販車の姿を残し、その前まわりとカラーリングによって本郷猛のバイクを再現しています。
初回発売は2020年で、その後も何度か再生産されています。2023年、2025年にも再販されており、完全に一度きりの限定品というわけではありません。

キット完成品

単なるキャラクターバイクのキットではなく、先に実車として開発されたGT380Bの精密なスケールモデルを土台にして、その上に劇中車の特徴を追加しています。

参考資料・参照リンク

スズキ公式資料

  • SUZUKI DIGITAL LIBRARY「1972 GT380」
    GT380の基本諸元、ラムエアーシステム、4本マフラー、1972年4月のフロントディスク仕様追加など。
    SUZUKI DIGITAL LIBRARY「1972 GT380」

『仮面ライダー』公式資料

  • 東映 仮面ライダー図鑑「新サイクロン号」
    初登場が第68話、1972年7月15日放送であること、通常のオンロードバイクから新サイクロン号へ変形する設定など。
    東映「新サイクロン号」
  • 東映 仮面ライダー図鑑「本郷猛」
    本郷猛が研究員であり、一流のオートバイレーサーでもあるという公式設定。劇中車を確認できる写真資料としても参考になる。
    東映「本郷猛」

当時の実車資料

  • Cycle World “Suzuki 380 Three” — June 1972
    1972年当時のGT380ロードテスト。ラムエアーの構造、3気筒4本マフラーの排気構成、走行特性、初期型ドラムブレーキの評価など、実車考証で特に参考になった資料。
    Cycle World “Suzuki 380 Three”

ハセガワ 1/12キット

写真資料

  • Wikimedia Commons — Suzuki GT380 (1972)
    1972年型GT380の実車写真。CC BY 2.0。記事に使用する場合は撮影者名、ライセンス表記、元ページへのリンクが必要。
    Wikimedia Commons「Suzuki GT380 (1972)」
  • Wikimedia Commons — Suzuki GT 380 カテゴリ
    1972年型のエンジン写真を含むGT380の実車写真一覧。
    Wikimedia Commons「Suzuki GT 380」

※本郷猛車の大型カウルについては、メーカー・商品名・デザイナー・製作者を直接特定できる資料は今回確認できなかった。

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