ずいぶん前に作ったロンドンバスです。

Revellの1/24。
Coca-Colaの広告は全部自作で、特定の実車を再現したものでもありません。
まぁ赤いロンドンバスならCoca-Colaが似合うだろう……くらいで作ったものです。今回、完成した模型をあらためて見ていて気になりました。RML2273 76 VICTORIA これ、実際にはどんなバスだったんでしょうか。
調べてみましょう。

制作したのはRevell 1/24
キットはRevellの 1/24 London Bus。現在のRevell公式データでは391パーツ、完成全長381mm。上下2階の客室は72席すべて再現され、後部の開放式乗降口まで作られた大型キット。なので、完成するとかなりでかい。そしてキットが再現しているのは、いわゆるRoutemasterの中でもRMLという長いタイプ。
今回選んだ車番が、RML2273 / CUV 273Cでした。この「RML」が、まず普通のRoutemasterとは少し違います。
RMLって何が違う?
標準型のRMは全長27ft 6in、64席。これに対してRMLは、車体中央に2ft 4inの一区画を追加して全長30ft、72席とした高容量型です。外から見ると、車体中央に追加された四角い窓が分かりやすいところ。
最初にRML880~903の24台が作られ、その後RML2261~2760の500台が本格量産されています。RML2273は、その量産グループのかなり最初の方ですね。
Routemaster自体は1954年に登場し、1956年からLondon Transportで営業運転、量産は1958年から1968年まで続きました。アルミ製応力外皮の車体と前後二つのサブフレームを組み合わせる、当時としてはかなり軽量な構造です。
つまり今回の2273は、「ロンドンの赤い二階建てバス」というだけではなく、Routemasterを大容量化したRMLが本格投入され始めた時期の車両だったわけです。

76 VICTORIAって何?
ここも最初は何となく見ていました。76は路線番号。VICTORIAは行先です。
「76番線、Victoria行」。この組み合わせはちゃんと実在します。1965年の初期RML+76番線+行先Victoriaという組み合わせは案外あったかもしれませんね。路線はVictoriaからTottenham、Lower Edmonton方面へ延び、ピーク時にはBrimsdownまで運行されていました。
しかもRML2273に非常に近い車番のRMLには、この76番で使われた記録も残っています。1965年の初期RML+76番線+行先Victoriaという組み合わせは案外あったかもしれませんね。1965年のRML+76番系統+Victoria行き、という組み合わせ自体は実在します。ただしRML2273自身が76番を担当した直接記録は確認できませんでした。

そもそも、なぜ赤い?
ロンドンバスといえば赤。
でも最初から、ロンドンのバスが全部赤かったわけではありません。20世紀初頭には複数のバス会社があり、車体色も会社ごとに違っていました。1908年、London General Omnibus Company(LGOC)が競合のVanguardを買収し、Vanguardが使っていた赤を採用。その後、各社がLondon Transportへ統合されていく中で、赤がロンドンのバスを象徴する色になっていきます。
ただ、「なぜVanguardが赤を選んだのか」というところまでは、確認できる資料が残っていません。目立つから……と言いたくなりますが、そこは推測にしない方がよさそうです。
じゃあ、この赤は何色?
模型を作る側としては、こっちの方が気になります。「赤なのは分かった。で、何色の赤?」。1960年代のLondon Transportのバス用赤は、保存車用塗料などでは一般にLT Bus Red / Ayres Redと呼ばれています。1965年頃のバスが「BS381C○○番」と直接指定された資料まではわかりませんでした。
現代TfLでは話が違っていて、London Busesの赤はPantone 485など明確な色規定があります。TfL Colour StandardではNCS S 1085-Y80R、RGB 220/36/31も指定されてます。現在のLondon Buses Redなので1965年のRML2273を「Pantone 485で塗れば史実通り」という意味じゃないです。

参考までに、現代TfLのLondon Buses Red(RGB 220/36/31)を299 Paint Finderで検索。タミヤLP-21、AK11088 Deep Redなどが候補に出ました。1965年当時のAyres Redを指定した結果ではありません。・・・・もう少しきちんと規定があったのかと思ってました。
赤いバスは、いつから広告になった?
今回の模型では、Coca-Cola広告をかなり大きく入れています。では実際のRoutemasterでは、広告はどう使われていたのか。もともとの基本は、赤い車体+決められた広告面でした。
つまり「バス」と「広告」は、まだ別のものだったわけです。ところが1963年には、London Transport自身がIlluminated Advertisements on London Transport Busesという照明付き広告の試験を行っていた記録があります。広告をただ貼るだけでなく、どう見せるかまで考え始めていました。
そして大きな転換になるのが1969年。RM1737がSilexine Paintsの広告で、London Transport初のall-over commercial advertising liveryをまといます。車体に広告を付けるのではなく、車体そのものが広告になりました。1970年2月8日にBankで撮影されたRM1737の写真も残っています。
1970年当時のRM1737 / Silexine Paints 実車写真
David Christie撮影、1970年2月8日・Bank
Flickrで写真を見る
そしてこの方法は一台だけの奇抜な試みでは終わらず、1970年代にはさまざまな全面広告Routemasterが現れていきます。
で、このCoca-Colaは?
ここで模型ですが・・・。このRML2273のCoca-Cola仕様は、「いついつの実車」ではありません。デカールは全部自作。自分で組み合わせた架空仕様です。
Routemasterの広告を調べて分かったのは、1960年代末にはすでに車体全体を広告にする方法が実在していたこと。いまではラッピングバスが当たり前ですが50年以上前にすでにおこなっていたんですね。

デカールはインクジェットプリンターで出力。アクリルクリアーで保護して使ってます。
なぜRoutemasterは消えた?
Routemasterは2005年、ロンドンの通常路線から姿を消します。でも、「古い車両だから法律で走れなくなった」という単純な話ではありませんでした。
大きな問題だったのはアクセシビリティです。後部の開放式プラットフォームと高い床は、車椅子利用者などには利用しにくい構造でした。また車掌を必要とする二人乗務は、乗降を早くできる反面、人件費という不利もありました。Routemaster Associationも、その両面を指摘しています。
低床・バリアフリー車への置き換えが進み、2005年12月9日、通常路線最後のRoutemasterが159番線から引退しました。約50年間、ロンドンの街を走ったことになります。
でもRoutemasterは消えなかった
通常営業からは引退しましたが、Routemasterそのものがなくなったわけではありません。保存された車両は多く、イベントや保存運転などで現在も姿を見ることができます。Routemaster Associationによれば、製造された2,876台のうち、現在も約1,230台が存在するとしています。引退した割に大人気ですね。
今回作ったRML2273 / CUV 273Cについても、後年まで実車の撮影記録が残っています。昔、ほとんどノリで作ったロンドンバス。あらためて追ってみると、長尺型RMLの初期量産車で、模型の「76番線・Victoria行き」にもちゃんと時代的な背景がありました。赤にも歴史があり、広告にも歴史がある。Coca-Colaだけは……やっぱり創作でしたけどね。
でも当時のRoutemaster広告を見ていくと、あのくらい派手にしても、それほど場違いではなかったようです。完成してから調べるのも、これはこれで面白いですね。
参考資料
Routemaster Association — History of Routemaster
Routemaster Association — RML history / specifications
London Bus Route 76 — route history
London Museum — Why London buses are red
London Transport Museum — Routemaster archive records
Revell — London Bus 1:24
TfL Colour Standard
RM1737 Silexine — 1970 photograph
おまけ

日本に持ってくれば、そのまま走れる……わけではありません。
Routemasterの全高は約4.38m。日本の一般的な車両高さ制限3.8mを超えるので、そのまま持ってきて普通に走れるわけではありません。
日本で営業に使われた車両では、基準緩和や通行許可の手続きに加え、非常口や灯火類なども国内基準に合わせて改造されています。
あの姿のまま気軽に持ち込めたわけではなかったんですね・・・。

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